回復
うちには17歳になる猫がいる。
最近、老衰のせいか、体調が芳しくなかった。
頭を持ち上げられない、動くことすら出来ない、ご飯も食べれず、栄養剤を与え、水で空腹を誤魔化すくらいだった。
うちはそんなに裕福な家庭ではない。
しかし、あまりの状態を見かねて病院に連れてっている。
本当に毎日連れていくものなのだけれど、そんな経済的余裕がない為、体調が本当に悪くなった時に点滴をうちに連れていくくらいしか出来ていなかった。
ここ何回もそんな日が続いていた。
それが、何がよかったのかが分からない。
突然グルメ嗜好になって良い缶詰を食べ始めたせいだろうか。
最近では見せなくなった元気さを取り戻している。
動けなかったのが、急に動き回るようになった。
1人で階段を上がるのも10分かかってたのが、一気にあがれるようになった。
あたしの部屋に来て、25-30センチはある高さのベッドに飛び乗れるようになった。
それだけの事かよ、と他人は思うかもしれない。
でも、この回復を目の当たりにしてしまうと、泣けてくる自分がいた。
ずっと悩んでいた。
老衰でこのまま静かに死ぬせてあげた方がいいのか。それとも、延命治療を続けるべきなのか、とも。
あたしの祖母は寝たきりで何年も過ごした。
逢いに行く度「もう十分生きた。早く死にいたい」それが、口癖になっていた。
それのことを思い出すのだ。だからこそ、延命治療に戸惑いが生まれていたのだった。
それでも治療してきたのには理由があった。
猫には、まだ生きようという意志があるように思われたからだ。
必死に自分の意思を伝えようとする、必死に何かをやろうとする。
それを見て「この子はまだ生きたいんだ」と思えたのだった。
その葛藤ん抱いていた生活が、好転したのだ。
それは喜ぶ他にない。
あたしのベッドのど真ん中で、外の空気を浴びながら気持ちよさそうに昼寝をする猫。
それだけで、充分だった。
他に語ることは何も無かった。
ーーー生きるーーー
なんて尊い事だろうか。